俺と、甘いキスを。
開かれた障子から縁側が見えた。縁側の掃き出し窓から入ってくる太陽の日差しは明るく、あたたかく感じた。
俺はその陽の光を浴びてみたくなった。
「花、話は縁側でもいいか?」
花は母親と見合わせてキョトンとした。
午後の昼下がりの縁側に、座布団が二枚と体温計とおしぼりの置かれたお盆、そして花の母親が用意したあたたかいお茶と薄く切られた自家製たくあんの小皿が並んだ。
向かい合った座布団に座って、俺は空を見上げた。数日ぶりに見た青い空、気分は悪くない。
この家は大きくて古いため多少の隙間風を感じても、体に当たる日光はあたたかくて気持ちがよかった。
「本当にここで話をするんですか。寒くないですか」
と、花は向かい合う位置に腰を下ろしながら気遣う。俺は「大丈夫」とだけ返事をした。
話を切り出したのは花だった。
「ここに運んだのは…右京さんを見つけたときは救急車を呼ぼうとしたんですけど、一人きりの自宅に戻ったらすぐに元の生活に戻るんじゃないか、と。だからそうなるくらいなら、右京さんを見つけたからには、良くなるまで面倒を見よう、と思ったんです」
うつむき加減に話す彼女が「でも」と、付け足す。
「でも、勘違いしないでください。確かに右京専務に言われて研究所に行って、今朝も右京専務から「弟の世話を頼みたい」と連絡がありました。それはどちらも断れることです。だから、私が右京さんに会いに研究所に行ったことも、ここへ連れて帰ったことも、あなたのお世話をすることも、全て私の意思だと思ってください」
俺の目を見てそれだけ言った彼女は、頬を少し赤く染めてフイッと視線を逸らした。