俺と、甘いキスを。
俺は自暴自棄になっていたかもしれない。
最近は色々なことが起こりすぎて、脳も体も限界だった。仕事のことも、マリエのことも、花とのことも。そして俺自身のことも。
周りからあれこれ言われて一人で考える時間を持てないまま、AIドールのデータ修復に取り掛かることになった。ただ、花に愚痴のようなメールを書き込むことだけが、小さな癒しになっていたかもしれない。
AIドールの不具合を見つけられない研究員数人が匙を投げたせいで、俺の仕事がグッと増えた。仕事とはいえ、やり場のない焦りや苛立ちを俺のところにやって来た花に当たり散らしてしまった。彼女を再び泣かせても、その反省すら出来ないほどの忙しさに苛立ちばかりが降り積もる。
それでも今、俺を看病しようとする彼女が無性に可愛いから、自分のことを棚に上げても手元に置いておきたいのだ。
どんな方法を使っても。
花が見合いするまでに。
「花、見合いはいつ?」
「三月十四日。来週の土曜日よ」
タイムリミットは一週間。
「場所は?」
「ティアラ・キャッスルホテルのフレンチレストラン」
「時間は?」
「お昼の十二時」
質問に少し口を尖らせてポツポツ答える彼女の姿に愛しさを感じる。抱きしめたい衝動を抑えるために息を吐く。
花を手に入れたい。その為には俺たちの間に絡まった問題を解いていかないといけないようだ。俺は彼女に聞きたいことがたくさんある。そして言わなければならないことが、たくさんある。