俺と、甘いキスを。

花は俺を諦めると言ったが、俺は微塵も諦める気はない。
「自分の女にする」、その一択だけだ。


さて、どうするか。

花の小さな肩に触れる。
この頃には太陽が傾き始めて、空が朱色と藍色のグラデーションを浮かばせる。

「花、お前は物事の筋を通す頑固者なのはわかっているから、俺の事で随分苦しんでいると思う。でも前に峰岸さんに言ったとおり、俺もどうしても諦めたくないものがある。花、お前だ」

「う、右京さん…?」
泣き腫らした赤い目、夕日に照らされた赤い顔で見上げる花。涙で濡れた頬を、俺はそっと指で拭う。

「あのな、ぶっちゃけると俺の脳みその中でお前は十年間も居座り続けてるんだぞ。今更「私はお見合いするので右京さんを諦めます」なんて言われても、俺の方は「ハイ、そうですか」なんかで納得できねぇんだよ」

「え?十年?」と聞き返す彼女の頭をポンポンと撫でる。丸い瞳で見上げる可愛い顔に、クスリと笑う。
「ああ。俺たちの謎解きは十年前から始まるんだよ、花」


夕食は、花が消化のいいものを作ってくれた。卵粥と白菜のそぼろ煮は優しい味付けで美味しかった。小さくなってしまった胃のせいか、たくさん食べることができなかったが、花は俺の食べた量に満足そうに頷いて、俺に薬を手渡した。
「無理に食べることはないです。美味しいと思っていただければ、自然と食も進むようになりますから」
と言って、食事の片付けを始めた。

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