俺と、甘いキスを。

川畑家のご好意でお風呂を頂き部屋へ戻ろうとすると、縁側で花の父が窓から空を見上げていた。「お風呂、ありがとうございました」と声をかけると、彼は浅黒い顔を向けて笑った。
「体調はどうかな。少し顔色が良くなったみたいだね」
「はい。昨日は医者まで呼んでいただき、ありがとうございました。いろいろ気を遣っていただき感謝しています。おかげで体調も戻ってきているように感じます」
俺の言葉に花の父は「それはよかった」と頷いた。

「なあ、右京さん」
彼は再度夜空を見上げる。
「ワシは今回の花の縁談を本当に良い話だと思っているんだ。今まで縁談の話は何度かあったが、花は首を横に振って笑うばかりでな。だから今度のお見合いに花が乗り気になったことが嬉しかった」

自分の娘が幸せになるためのお見合い。そのはずなのに、その表情は何故か浮かない。
「そうだったんですね」
と、相槌を打ってみた。
しかし彼は「だけど」と言葉を繋ぐ。
「右京さんと一緒にいる花を見ると、本当に見合いをさせて良かったのか、今更ながらわからなくなる」
本当に困ったように目尻にシワを作り、苦笑した。
「うちには長男がいるんだが警察官なんて仕事をしているから、家を出てひとり暮らしをしているんだ。そのせいか、どうしても花に目がいってしまう」

なるほど。
先日、花をここまで送ったときに居合わせた男性、花の兄は警察官だと聞いて、あの妙な威圧感は職業柄なのかと納得した。
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