俺と、甘いキスを。

花の父と別れてから部屋に戻り、俺は画面にヒビの入ったスマホを手にした。
夕方花が「充電しておいた」と手渡されたスマホ。電源を入れると、兄貴から一件、マリエから三件、柏原さんから一件の着信が入っていた。マリエと柏原さんの用件は見当がついている。

俺は兄貴の番号をタップした。
今の俺が頼りにできるのは、自分の身内と花だけだ。


翌朝。日曜日といえど、川畑家の朝は早いようだ。俺が起きた頃には花の両親は既に畑へ出かけて、家には花が一人、洗濯物を干していた。
俺に気づいた花が「おはようございます」と言いながら、洗濯かごを抱えて近づいてきた。縁側に立つ俺を見上げて、
「顔色が良さそうですね。朝食にしましょうか」
と、微笑んだ。

薄く刻んだ大根が出汁で柔らかく煮込まれた雑炊だ。味噌でほんのりと味付けてある、細かく刻んだネギと白胡麻を混ぜて食べる。

──美味い。

あたたかい食べ物が体の中へ入っていくことが、同時に気持ちが落ち着いていくように感じた。
花の家のダイニングで食べる朝食。窓から日差しの入る明るい台所、存在感のある大きな食器棚、古そうに見えて大事に使われているらしい四人掛けのダイニングテーブル。
台所とダイニングはリビングとガラス戸で仕切られているが、ガラス戸を開けるとリビングまでひと続きの空間ができてとても開放的になる。今は三月であるが朝方はまだ寒いのでダイニングとリビングはガラス戸で仕切られていた。

キョロっと部屋を見回して、俺は雑炊を口にする。
「昼飯も、これがいい」
とリクエストをすると、彼女は「はい」と目を細めた。
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