俺と、甘いキスを。
「…私は、右京蒼士さんが好きです。既婚者だから、嫌いになりたくても、忘れようとしたくても……私の中にいるあなたは、消えてくれませんでした」
思った以上に大きな声が出ている自分に驚く。それも、これが最後だと思えば、気持ちも大胆になる。
「本当に、本当に…あなたが、好きでした。でも、この気持ちも…これで終わっ…り…」
声が、力なく震える。
脳裏に浮かぶのは、無愛想に口元を歪ませた、切れ長の瞳の男の顔。
「わ、私、来月にお見合いすることになりました。私は三十三歳です……年老いた両親を安心させたいと思ったので、結婚のことを前向きに考えることにしました…」
お願い。
頭の中の右京蒼士、消えて。
「だから…だから、あなたへの片思いを、今日で終わりにします。今まで……あり、が…」
もう、声が掠れて言葉にならない。
終わりにしなきゃ、いけないのに。
全身から溢れ流れる右京蒼士への想いが止まらない。
彼の姿を思い出すだけで、息ができないくらい苦しい。
──もっと、もっと、好きでいたいのに。
決心が簡単に崩れてしまうくらい、愛しい人なのに。
次から次へと流れ落ちる熱い雫は、頬を流れて冷たくなる。
拭っても、拭っても、止まらない。
私は、右京蒼士じゃない男の人と結婚するの。
そう、自分で決めたじゃない。
次々と絡み合う気持ちに、涙は容赦ない。
もう二度とないであろう、最後の告白だった。