俺と、甘いキスを。
休日で立ち直ったと思った気持ちは、ただの見せかけだけだった。
始業時刻を迎えてすぐのことだった。
デスクの内線電話が鳴り出す。
「はい、事務所の川畑です」
と答えながら、相手の内線番号を確認する。
内線番号45。
──45?
記憶にない番号に首を傾げていると、
「今すぐ来い」
と、聞き覚えのある声がした。
一方的に電話を切られ、視線を電話横の内線番号表へ動く。
内線番号45、頭に浮かんだ人物その人だった。
会いたくないのに。
この研究室の前で盛大な告白をして号泣した先週の金曜日ぶりで、再びここに立つことになるとは。
しかも相手の声は不機嫌で、有無を言わさない命令口調に呼び出されて私の気持ちは困惑するばかりだ。
「右京研究室」の前で何度目かのため息を漏らして、仕方なく入口のインターホンを鳴らして「川畑です」と名乗った。
すぐにドアのガラス越しに、切れ長の目の整った顔が見えた。「カチリ」と施錠を解く音と同時にドアが開き、小声で「入れ」と促された。中に入ると、仄かに金属の匂いがした。
一歩踏み出そうとした時、
「動くな」
と、言われた。
「え?」
と、訳がわからず足を引っ込めて声を上げた。
すると「フシンシャ、フシンシャ」と、彼の後ろから機械的な声がした。