俺と、甘いキスを。
その言葉に、真里奈は「え?」と首を傾げ、私も母と顔を見合せた。
以前、右京蒼士から椿マリエとこ結婚について「ちゃんと説明する」と言われたことだ。
「まず、説明より先にこれを聞いてください」
と、右京蒼士のポケットから出てきたのは、今回二度目のボイスレコーダー。
再生ボタンが押されると、右京蒼士と椿マリエの会話が流れ出した。
『あの時、お前を抱いた、ホテルの名前』
そんな言葉にみんなが一斉に驚き、椿マリエは「ええっ」と口に手を当てて動揺する。
そして、
『俺はそのホテルでお前を、マリエを妊娠させたんだな?』
と、このセリフは一昨日の朝に右京蒼士の部屋から聞いたものだと気づく。
あの時は自分が聞いてはいけない会話だと思い、すぐに部屋の前から立ち去ったことを思い出した。
その会話の続きを、ボイスレコーダーが教えてくれた。
『マリエは俺に妊娠したと言った』
『そうよ』
『マリエは責任を取って結婚して欲しいと言った。だから俺たちは婚姻届を書いて役所へ持っていき、結婚した』
『ええ……そうよ』
『その後、マリエはイタリアへ渡り、流産した』
『そうよ。階段から落ちたの』
録音された会話は、ここで終わっている。
私も、多分これを聞いたみんなも、二人の会話に不可解な点はなかったはずだ。
──内容的には、妊娠したから結婚して、流産した……ってことよね?
右京蒼士は私たちを見回す。
「会話だけでは何も問題はないように思われるでしょう。当時は俺もまだ若く、妊娠がどういうものかわからず、マリエの話を鵜呑みにしていました。また、自分も責任を感じていたので、彼女のライフスタイルを尊重して自由にさせていました。しかしあの頃の彼女の言動を不振に思うようになり、俺のマリエに対する接し方がある意味間違っていたと気づきました。彼女の「妊娠」という時から、自分のそばに置いておくべきだったと反省しています」