俺と、甘いキスを。
『マリエが結婚したって聞いた時は驚いたわ』
『でも生活は独身の頃と全然変わっていなかったわね。日本で結婚してこっちに帰ってきても週二回のジム通いとエステ、週末はパーティー三昧。その度に高価なシャンパンやワインを何本も空にしてたわね』
『え?マリエが妊娠?アハハッ、そんなわけないわよ。階段から落ちたなんて、聞いたことないわ。だって私たちは下働きからの仲間ですもの、彼女が妊娠してたら知らないはずがないわ』
『それに、彼女が妊娠する可能性は低いわよ。だってマリエは私たちに言ってたんだもの』
『彼氏が多いから、妊娠したら誰の子かわからなくなる。だから……』
──だから、アタシ、イタリアに来てからずっとピルを飲んでいるの。避妊だってしてるわよ。
『……ってね』
「?!!」
動画を見ているみんなが一様に目を丸くして驚いている。ただ一人、椿マリエだけが体を震わせ首を横に振っていた。
「ダメ……お願い、聞かないで」
と、涙ですっかりお化粧の崩れた顔で泣いている。
峰岸真里奈が「確か、椿マリエのデザイン事務所のサイトに」と話し出す。
「公式プロフィールが載ってたわ。高校を卒業して被服の専門学校に三年通い、単身イタリアへ渡って大手デザイン事務所に就職した……イタリアへ行ったのは二十一歳ってことね」
右京蒼士の椿マリエが結婚したのは二十三歳。もしイタリア美人たちが言っていることが本当なら、二人がホテルに行ったときには椿マリエはピルを服用していた、ということだ。
嘘か実か。
今まで知ることのなかった彼女のプライベートの生活を、私は想像することができなかった。
私は。
私は、右京蒼士と「不倫」という関係になり、昨日初めて彼に抱かれた。たくさんの不安の中で自分と同じ思いを背負ってくれると言ってくれた彼に安心していたが、それでも自分はいっぱいいっぱいなのだ。
もし椿マリエのイタリアの生活が本当なら、右京蒼士以外の男性と関係を持って罪悪感を感じないのだろうか。
私は。