俺と、甘いキスを。
最後の謎解き

着物ハンガーに掛けられた、桜色の着物。
一日中、グッと体を締めつけた金色の帯。
履きなれない足袋に、何度も躓きそうになった薄ピンクの草履。
それらを全て脱ぎ捨てて、シャワーで汗を流した私は、自宅の夕方の薄暗い縁側に立っていた。西の赤い空から藍色の夜空へ変わるグラデーションを眺めたまま、無意識にため息を零していた。


あれから鳳会長は両親を誘ってホテルの中にある有名な料亭へ食事に行ってしまった。

「蒼士はそう遠くない日に、花さんに結婚を申し込むでしょう。川畑くんもうちの親戚になるんだから、その前祝いに美味しいものを食べましょう」
と、ご機嫌で両親を連れていったのである。

右京蒼士は「兄貴と話があるからロビーで待ってて」と言われて、私は大人しくロビーで待っていたのだが……。一時間経っても戻る気配がなかったので、彼に「帰ります」とメールをしてホテルを出て帰ってきたのだ。

本当は、右京蒼士に聞きたいことがあった。
いや、今まであれこれとお互いに見えない部分を明らかにしてきた。今、それらをゆっくりと思い返してみると、私が一番知りたかった、聞かなければならなかった謎はたった一つだけなのだ。この質問が私の気持ちをハッキリさせる、最も早い近道だったかもしれない。
自分の手の中にあるスマホには、右京蒼士からの連絡はまだない。

そういえば。
私はスマホケースに挟んでおいた、三条美月からの名刺を見つめた。
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