俺と、甘いキスを。


それは、私が右京蒼士に一番に聞きたかった、そのヒントになる内容だと思った。
「……」
彼女の話を聞き終わったあと、私は縁側に座り込んでいた。どこを見ているのかわからず、ただ、三条美月の話したこと全てが頭の中で何度もリフレインしていた。


『毎年バレンタインデーに蒼士が女の子たちからもらうチョコレート、夜に私と蒼士が一緒に回収しているの。マリエに頼まれて、名前のあるチョコレートはメモして全部処分しているの。私はその名前の中からランダムにディナーに招待する相手を決めている。もちろん、蒼士も毎年誰からチョコレートをもらったかを知っているわ』


「……電話、しなきゃ」
私は震える手で、スマホをタップする。


『蒼士は毎年、チョコレートを送った彼女たちの名前を見て、ガックリと肩を落としていたわ。きっとチョコレートをもらいたい女の子がいるんだと思った。そして、今年のバレンタインデーの夜……』


耳に聞こえる、右京蒼士に届く呼び出し音。
「右京さん……」


『女性が一人、蒼士の研究室の前で立っていた。彼女は建物の前で蒼士が好きだ、と告白していた。「でも自分はお見合いをすることになったから諦めるのだ」と、研究室の中にいるかもしれない蒼士に向かって、大声で話していた。「好きでした」と泣きながら叫ぶ姿を、私たちは見ていたの。少し離れた、桜の木の下でね』
< 207 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop