俺と、甘いキスを。
「花?今ロビーにいるんだけど、どこにいるんだ?もう、家なのか?」
と、スマホから聞こえる、どうしても聞きたい声に胸が苦しくなる。
右京蒼士は、バレンタインデーのあの告白を見聞きしていたのだ。全部、彼に見られていたのだ。
『彼女が泣いているとき、蒼士も蹲って握り拳で何度も地面を殴っていた。地面を殴りながら、必死に声を押し殺して……泣いていたわ』
「う、右京さん。家に、いる」
と、自分で情けないと思うくらい、弱々しい声が出る。
「兄貴と込み入った話をしてて、遅くなってごめんな」
と、彼は謝る。
『蒼士は私に言ったわ。「もう、あの人を泣かせない」って。マリエと離婚すると言い出したからビックリしたけど、あの子の意志が固いことを知ったから手を貸すことにしたのよ。バカな弟だけど、一度心に決めたことは絶対に曲げない頑固者だから。あなたに対しての気持ちも、きっと本心よ』
三条美月の話がずっと頭の中を駆け巡る。私の心臓はドキドキと強く脈打って痛い。
『弟は無関心なことは冷めてるけど、私たちを巻き込んでも手に入れたいあなただったのよ。一生、幸せにしてくれるはずよ』
──私を幸せにしてくれる、大好きな人。
「蒼士……会いたいよ」
「……すぐに行く。待ってろ」
私は縁側にスマホを置いたまま、家の中も暗いことも構わずに星の見え始めた夜空を、ぼんやりと見上げた。