俺と、甘いキスを。

人の話し声が聞こえると思えば、すぐに白衣姿の研究員たちが廊下を歩いて休憩スペース横を通り過ぎていく。
自販機を見つめていた私は、彼らへ目を向ける。何やら難しい会話を聞きながら再びお弁当に目を落とし、昨日の夕食に取り分けたハンバーグをつまもうとした。

「では、後ほど制御システムのデータを取りに行きますので」

その声に反応して、私はギクリと肩を震わせた。ハンバーグを狙った箸も止まる。
すぐにその声は色気のある女性の声に消されてしまった。
「ちょうどお昼なんですから、食堂で食べてから柏原研究室に寄ればいいんじゃない?」
と、親しそうに話す女性と、その相手をチラリと見上げた。

白衣姿に背中まである黒髪ストレートを軽く靡かせた、スラッとした後ろ姿。
オオトリ技術開発研究所の一番の美人と評判の、柏原研究室に勤務の原田 京華(はらだ きょうか)だ。

そして、彼女の話し相手へ視線を向けた。
同じく白衣姿で黒髪で少し長い前髪。私より白く、シミひとつない透きとおった肌。切れ長の瞳の整った顔立ち。余分な贅肉が全くなさそうな、細身のモデル体型。

五年、それよりもっと前の彼の入社当時から、少しずつ大人の男性へと色気を増していった容姿は、今では研究所の一番人気の存在だ。

右京 蒼士(うきょう そうし)

詳しいことは知らないが、この研究所でAI(人工知能)の開発に携わる彼の存在は必要不可欠だとか。
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