俺と、甘いキスを。
これは彼の奥様であり、イタリアで活躍中のデザイナーの椿マリエが、
「いつも夫がお世話になっている女性たちに、日頃の感謝を込めて」
という、彼女が寛大な女性であることを何気に強調した配慮によるものらしい。
それを知った上でイケメンな右京蒼士にチョコを贈るのは、
「選ばれれば、彼と夢のような時間を過ごすことができる」
という、束の間の望みを持つ女性がたくさんいるということだ。
彼は既婚者だけに、椿マリエを敵視して彼を本気で略奪しようと考えているチャレンジャーは、よほど自分に自信があるのかもしれない。
右京蒼士は、誰にでも紳士で優しい。
このイメージが、彼が入社してから根強く残っているのだ。
でも、私は違う。
そんな彼を好きになったんじゃない。優しいからだとか、イケメンだからとか、頭脳明晰だからとか、そんな理由じゃない。
右京蒼士と甘い関係になりたくて置かれたチョコさえ、軽蔑する。
何度も言うが、彼は結婚しているのだ。それが忘れがちになり人気が暴走しているのは、「彼が既婚者らしくない」ことが大きな原因だと思う。
悔しくも、私もその中の一人だから。