俺と、甘いキスを。


ガードに解錠してもらい中に入った右京研究室で、私は言葉を失って立ち竦んでいた。

「いやいや、これは…」
と、一人の高齢な男性が難しい顔をして唸り、机の上に置かれたものを睨んでいる。
彼の向かいには、銀色の長方形の箱型の「もの」が机の上にあり、丸くて黒い二つの目が彼と同じく机上のものを見ているようだ。因みに箱の上からはガードと同じような細い腕が一本伸びて、一箇所肘のように折れ曲がり、更に手首のように折れ曲がった先には三本の「指」がある。その指は丸いものを持っていた。

男性と「箱」の間にあるモノ。
オセロゲーム。

それぞれが白黒の伏石を持ってオセロの盤を睨んでいる。男性が伏石を置いてひっくり返せば、箱から伸びた三本の指が対抗して伏石を置いて白を黒に変えていく。

多分、人間の脳VS「AI」。

それはさておき、来客があるなら言ってくれたらいいのに、とミニキッチンでコーヒーを淹れる右京蒼士をムッと睨む。彼は目元を緩ませ、マグカップを片手に歩いてきた。
「もうすぐ会議の時間だと思うんだが、じいさんがなかなか腰を上げてくれなくて」
と、オセロの彼を見た。

じいさん、て。

「?!?!」
ビックリして大声を上げそうになるのを、両手で口を塞ぐ。「んぐっ」と息と一緒に飲み込んで、小声で右京蒼士にきいた。
「今の時間、会長は柏原研究室にいるはずだと聞いています」
と、私は壁のデジタル時計を見上げた。
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