俺と、甘いキスを。
彼はコーヒーを一口啜って、オセロに夢中になる祖父であり会長の鳳菊之介を見つめて苦笑する。
「お前は知らないと思うが、じいさんが柏原さんの話をろくに聞かないのは研究所内でも知られていることだ。仲が悪いんじゃないかと噂されているが、本当はそうじゃない。柏原さんはじいさんの懐刀で会社で一番信頼している男だ。話を聞かないのは彼に「好きにやれ」という意味で、特に首を突っ込まない。柏原さんから研究の概要だけ聞いて、それでおしまい。周りから見ればじいさんが彼を嫌っているように思われがちだけど、実際は熟知しているからそれ以上の説明は要らないんだ」
「そう…だったんですか」
ズラリと喋り倒してマグカップに口をつける右京蒼士に、私は口をポカンと開けて頷いた。
「そう。柏原研究室の視察は五分で終了したそうだ。今は時間潰しに、ここでオセロをしている」
「あの…会長のお相手をしている「アレ」は…」
と、会長の向かいに鎮座する「箱」を指した。
右京蒼士はクッと笑う。
「あれは三日前に完成した「Mr.オセロ」。オセロゲームで対戦できるAIロボットだ。まだ試作品一号で改良の余地があるが、まあ、今のじいさんの遊び相手には十分だな」
私たちの見ているところで、会長はずっとオセロに集中している。きっとこの集中力が右京蒼士に受け継がれているのだろうと思った。
それから間もなくして「Mr.オセロ」が、
「LOSE、LOSE」
と、機械的な声を出した。
彼は機嫌良さそうに「じいさんが勝ったようだ」と言って、会長へ近づいていく。