【女の事件】豚小屋

第5話

7月22日の朝7時過ぎのことであった。

場所は、家の居間の食卓にて…

この日、なおみが通信制大学へ行く日であったが、すでにやめたから関係ないか…

それなのに、りつよはなおみに『今日は大学へ行く日よね…お友だちに会えるよね…』とやさしく言うた。

だから、なおみは『バイトだから行けない!!』とりつよにとげとげしく言い返した。

そして、家を出ていった。

りつよは、小首を傾げ(かしげ)ながら『大学でイヤなことでもあったのかなぁ?』とつぶやいていた。

忠家は、朝早くにゴルフバッグを持って家を出ていた。

さおりも、朝早くから家を出ていた。

なおみが家を出てからしばらく時間が経った時、直家はりつよにこう言うた。

「りつよ。」
「なあに?」
「なおみはこの最近どうしたのだ?」
「えっ?この最近って…」
「お前、なおみにいらんことでも言うたのか?」
「言うてないわよぉ…」
「りつよ!!お前もこの最近生活態度が悪いようだな!!」
「おとーさん!!」
「何なのだ!?」
「アタシは『今日は大学へ行く日よね…』と言うただけよ!!」
「だから、いらない言葉がどこかでまざっているのではないのかと聞いただけなのに…どうして目くじらをたてているのだ!!」
「そういうおとーさんこそ、いらない言葉が目立っていると言うことに気がついてよ!!」

りつよの言葉を聞いた直家は、のみかけのお茶を一気にのみほして大きく息をしてから、りつよにこう言うた。

「なおみが大学へ行くことがしんどいと言うているから、今後の人生設計のことで話がある。」

直家は、なおみの今後の人生設計のことをりつよに話した。

「りつよ…なおみは大学に行くことがつらいというているから、大学をやめさせることにした。」
「大学をやめさせるって…」
「なおみは、大学に提出するレポートを書いていなかったって本当なのか?」
「レポート?」
「今のなおみは、レポートを書く時間がないほどバイトが過密になっているから、今の状態では大学なんか無理だ…」

直家は、ひと呼吸置いて、りつよにこう言うた。

「残された方法は、結婚しかないと思う…」
「結婚しかない?」
「なおみに学歴なんか猫に小判だ…結婚して家庭に入った方が100パーセント幸せになれる…年収800万円以上の高学歴のサラリーマンか弁護士か国家公務員か、あるいは個人経営者の跡取り息子と結婚させて家庭に入れば人生はバラ色だ!!」
「おとーさん…」
「知人の夫婦に仲人のお世話をお願いしに行く…なおみの問題は解決したから、次はさおりの人生設計を決めておこう。」
「さおりの人生設計を決めておこうって、…」
「りつよ!!お前はそれでも母親か!?お前は母親らしいことをなおみとさおりにしていると思っているのか!?母親だと言うのであれば、パートパートパートと言うて逃げ回らずに、真剣に向き合え!!」

よりきつい声でりつよに言うた直家は、背中を向けて無愛想な表情で居間から出ていった。

直家が言うた言葉を聞いたりつよは、カチンと来ていたので、にらんだ表情で直家の背中を見つめていた。

この日、りつよは体調不良でパートを休んだ。

ところ変わって、名古屋栄の中心部の地下街にて…

忠家は、りつよに上司のお供でゴルフとウソをついてゴルフバッグをかついで家を出た後、JR飯田駅から高速バスに乗って名古屋に遠出をしていた。

サカエチカの待ち合わせの目印の銅像がある場所にて…

「忠家。」
「ちかこ…」

忠家は、大きく手をふって女を呼んでいた。

りつよに上司とゴルフとウソをついた忠家は、栄南のナイトクラブのホステスと密会していた。

ちかこと再会した忠家は、抱き合ってキスをした。

「忠家…ちかこ…さびしかった。」
「オレも…ちかこが恋しい気持ちでいっぱいだよ…」
「うれしい…」
「ちかこ。」
「忠家。」

再会を喜びあったふたりは、うでを組んでデートに行った。

その一方で、りつよは忠家がゴルフとウソをついて女と浮気をしていると言うことは知らない。

だから、忠家はちかこにのめり込んでいた。

ところ変わって、高羽町にあるセブンイレブンにて…

大学をやめたなおみは、バイトに専念していた。

この最近、日曜祝日に入る予定の若い従業員さんが『遊びに行くので休ませてください。』などとわがままをこねていたので、なおみにばかり負担がかかっていた。

なおみが新しく来たお弁当を陳列ケースに並べる前に賞味期限切れのお弁当を整理する仕事をしていた時に、店長さんがもうしわけない表情でなおみのもとにやって来た。

「なおみさん。」
「なによ…」

さおりは、ものすごくとげとげしい声で店長さんに言うたので、店長さんはものすごく困った表情でなおみに言うた。

「なおみさん…なおみさんはこのままでええんかなぁ。」
「店長!!店長はアタシに何が言いたいのかしら!?」
「なおみさん…」
「アタシ!!『遊びに行くから今日は休ませてください。』と言うて休んだ若い従業員さん(18歳・高校生)に思い切りキレているのよ!!店長!!」
「悪かったよぉ…」
「悪いことをしたと思っているのだったらアタシにあやまってください!!アタシ!!遊びに行くので休ませてくださいと言うた若い従業員さんのせいで大学をやめたのよ!!」
「せやから、あやまるから…ごめんなさい…あやまったよ。」

店長の言葉を聞いたなおみはカチンと来たので、怒りをこめて店長に言うた。

「店長…今の言葉は何なのですか!?ごめんなさい…あやまったよって…それで許してもらえると思っているのかしら!!」
「なおみさん…」
「アタシ!!働きながら学ぶのがイヤだから大学やめました!!」
「なんでやめるんねん…せっかく入れた大学なのに…」
「やかましいわね!!大学自体がイヤだからやめたのよ!!」
「ほな、どうするんぞぉ~」
「(さげすんだ声で)知らないわよ…あんたはアタシにいちゃもんつける気ィ!?」
「大学やめるなんて、もったいないねん…」
「もったいないからなんだと言いたいのよ!!」
「せっかく入った大学を急にやめるなんてもったいないじゃないか。」
「バカみたい…」
「なおみさん…」
「アタシは、大学と仕事の両立ができんから大学をやめたのよ!!」
「困ったなぁ…」

店長は、ひと間隔を空けてからなおみにこう言うた。

「なおみさん…せやったら大学に代わる別の場所へ行ってみたらどないやろか?」
「(ボソッ)また店長が作り話をしているわ…」
「作り話じゃないのだよぅ~」
「いいかげんにしてください!!」
「なおみさん、私はなおみさんがつまらんつまらんと言うているから、勤労青少年ホームがあるから行ってみたらって言うているのだよ…」
「店長、ここ数日暑さで頭がイカれているからテキトーに作り話をしているみたいねぇ~」
「作り話じゃないのだよ!!本当に勤労青少年ホームがあるのだよ…」
「(ますますさげすんだ声で)だから、そんな夢みたいな場所なんかこの街にはありません。…暑さで頭がイカれているから精神病院へ行ってください!!はい、お大事に!!」

なおみは、店長にケーベツする声で言うたあと、バイトを再開した。

それから1時間後のことであった。

なおみは、早退けを帰宅することにした。

ちょうどその時であった。

沼隈がなおみのもとへやって来た。

沼隈は、途中の道でなおみを待ち伏せていた。

沼隈は、なおみに会うなり淵埼のことをシツヨウに聞いた。

「あんた、本当に知らないのか!?この写真の男のこと…」
「知らないわよ…」
「そうか…知らないか…」

なおみは、沼隈になんで淵埼を探しているのかを聞いた。

「あの~…あなたは、写真に写っている男性をなんで探しているのですか?」

なおみの問いに対して、沼隈はこう答えた。

「2月の終わりに、公判期間中の被告人の男が護送車から脱走した男だ。」

沼隈の言葉を聞いたなおみは、声を震わせながらは『そんな…』と言うた。

沼隈は、ニヤニヤとした表情でなおみに言うた。

「本当に知らないのか?」
「知らないわよ!!」
「そうか…」

その時であった。

りつよが、フラフラとした足取りでコンビニの近辺を歩いていた。

りつよは、沼隈となおみが話し込んでいるのを聞いたので、もしかしたらと思ってこわくなった。

もしかしたら…

沼隈がうちの近辺にやって来るかもしれない…

どうしよう…

この時沼隈は、なおみとお話をしている最中であったので、りつよが近くにいることには気がついていなかった。

しかし、りつよ自身はすぐ近くに脅威が迫っていると関知して、急いで逃げ出した。

ところ変わって、コンビニから700メートル先にある公園のトイレの個室にて…

りつよは、洋式便器に腰かけて、スカートの中に手を入れてショーツを下ろした後、ほおづえついて考え事をしていた。

沼隈は、なおみにちょっかい出していた…

一体、なにをたくらんでいるのか…

沼隈は…

間違いなく、アタシたち一家をマークしてくるわ…

もし…

そのようになったら…

村で暮らして行くことが…

できなくなるわ…

そうなる前に…

村から脱出しなければ…

りつよの心は、村で暮らして行くことができなくなるかもしれない…と危機感をつのらせていた。

ところ変わって、南知多道路の古布インターの付近の県道沿いのラブホにて…

時は、夕方6時頃のことであった。

忠家とちかこは、ベッドの上で生まれたままの姿で抱き合っていた。

「ああ…忠家…忠家…忠家…」
「ちかこ…ちかこ…ちかこ…」
「ああ…むさぼって…むさぼって… むさぼって…あああああああああああああ!!」
「ちかこ!!ちかこ!!」
「忠家…忠家…イヤァァァァァァァァァ!!イヤァァァァァァァァァ!!イヤァァァァァァァァァ!!」

さて、その頃であった。

ところ変わって、直家とりつよ父娘の家にて…

家の居間には、直家とりつよだけがいた。

忠家となおみとさおりが家に帰っていないので、直家とりつよが心配していた。

そんな中で、直家がりつよに話をしていた。

「りつよ。」
「なあにおとーさん。」
「りつよ…今日、なおみがバイトをやめたみたいだな…」
「ええ。」
「なおみが通信制大学とバイトをやめたので、村を出て県外へ引っ越しをしよう。」
「県外へ引っ越し…」
「今日昼前に、枇杷島(びわじま)のおとーさんの実家のおじさんが倒れたよ。」
「枇杷島のおじさまが倒れたって?」
「ああ…ちょうどいい機会だから、村を出て枇杷島へ帰ろうと思っていたところだ。」
「それで…家はどうするのよ。」
「売却する…明日不動産屋さんへ行って、手続きを取ってくる…ちょうどいいタイミングでなおみにいい縁談が来るかもしれないと思っている。」
「お見合いって…」
「枇杷島の家が借金を抱えているから、その後始末をするためのお見合いだよ。」
「そうなのね…でも、借金返済のことをどこに頼むのよ…大須で暮らしている酒問屋の人に頼むの?」
「そうだよ。そういうわけなので強制お見合いをさせて、日を置かずに入籍をさせる…そのことをなおみに伝えておきなさい。」
「分かったわ…それで、さおりの中学はどうするのよ?」
「さおりは、枇杷島のこども病院の中に院内学級があるから、そこへ転校させる…」

直家は、きょうだいが残した借金を帳消しにするために大須の酒問屋の家にお願いをするのと同時になおみに強制お見合いをさせて、すぐに結婚させると決意した。

7月23日から1ヶ月にわたって、直家りつよ父娘は引っ越しの準備に追われていた。

8月24日に、引っ越しの準備が完了したので、一家は家を出て行った。

直家りつよ父娘の家族は、枇杷島へ引っ越しをしたのを機に、もう一度0からやり直すと訣意(けつい)して再出発をしたが、恐ろしい悲劇は終わっていなかった。

一家の暮らしが落ち着いた9月の終わり頃に、再び恐ろしい悲劇が一家に襲いかかった。
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