~fault~私だけが・・・
ベランダ越しの部屋の窓に渉は立ち尽くしこっちを見て泣いている。
オレは窓を開けそうになる手を抑えてスマホを耳に当てたまま渉を見つめた。
どれくらい沈黙のまま見つめただろう。
次の瞬間、力なく崩れた渉。
窓を開けベランダずたいに飛び移り手摺をまたいだ時、オレの部屋を出て行く聖奈のうしろ姿が見えた。
ゴメンな聖奈。

窓をそっと叩き家族にバレない様に小さな声でスマホ越しの渉に声を掛ける。
【渉、、声聞かせて、わたる?】

渉は気持ちを押し殺す様に泣いていた。
そんな渉にオレはただ名前を呼ぶ事しか出来ない。かと言って何をしてやればイイのかなんて全く分からなくて、自分が情けなくてイヤになる。
その時、渉の右手がスッと伸びてカギを開けた。一瞬迷ったけど窓を開け中に入った。

『渉・・・』
渉の前に座り渉の手を取ったけど、渉は咄嗟に手を引っ込めた。
ムリもない。オレも男なんだ、当然の反応で下を向いたままオレの名前を何度も呼び

『たくみ、、眠れない全然眠れないの』
『うん』それが精一杯のオレだった。

何度も伸ばしては引っ込めるオレの手を掴んだ渉とあの日以来初めて視線が重なる。
すると渉は『匠!助けて!』 と言って抱きついてきた。


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