シンフォニー ~樹
「絵里ちゃんね、誕生プレゼントに 指輪をもらったんだって。ケンケンに。」
母は、いらない情報を樹に伝える。
「へえ。俺にも見せて。」
樹が言うと、絵里加は 白い掌を 樹の前に開く。
樹はその手を取って、指輪を見る。
控えめなパールが愛らしい指輪。
絵里加の細い指に良く似合う。
「可愛いじゃん。姫に似合うよ。」
樹が言うと、嬉しそうに微笑む絵里加。
樹が手に触れることに、何の警戒もしない。
「細い指だな。全部、俺の小指よりも細いよ。」樹の言葉に、
「そうかな。タッ君、合わせてみて。」と掌を広げる絵里加。
樹は絵里加の掌と合わせる。
「本当。絵里ちゃんの指、細いわ。」
二つの手を見て、お祖母様と母が笑う。
絵里加の掌は さらっとしていて 温かい。
この小さな手を守るのは、自分ではないことが切ない。
離したくない思いが、胸を締めつける。
樹はふいに、指相撲のように手を握る。
絵里加の親指を倒して、数を数える。
「タッ君、ずるい。急にやるんだもの。」
頬を膨らます絵里加。樹はそっと手を離し
「そんな小さな手じゃ、まだ俺には勝てないよ。」
大らかに笑い、楽しいお兄さんを演じ続ける。