シンフォニー ~樹
家に上がった絵里加は、お祖母様と おしゃべりをしている。
「タッ君。絵里加を送って。」
着替えて 下りてきた樹に、絵里加は言う。
「甘ったれ。」と言って、絵里加と玄関を出る樹。
絵里加は、そっと樹を見上げて、
「絵里加ね、本当は怖いの。すごく幸せだけど、全部が 変わってしまうことが。ねえ、タッ君、大丈夫だよね。」
絵里加の一途な目は キラキラ輝いて、樹を見つめる。
“なんで俺に言うんだよ” と言って、絵里加の細い体を 抱きしめてしまいたい。
「大丈夫。何も心配ないよ。全部、上手くいくから。」
でも樹は、優しく言う。
絵里加の頭にそっと手を乗せて。
絵里加は、ふっと息を吐き、甘い笑顔になる。
「ありがとう。タッ君に そう言ってもらうと安心する。」
潤んだ目で樹を見つめて。
「ケンケンにも、おいでって言ってよ。何でも 相談に乗るから。」
樹は、自分の言葉に呆れる。どこまで道化師なんだと。
絵里加の家の前、『ありがとう』と言って、小さな手を ヒラヒラ振る絵里加。
やっぱり、これでいいと思ってしまう。
樹は、絵里加の後姿が ドアの中に消えるまで、そっと見送った。