シンフォニー ~樹
絵里加は、弟の壮馬が 幼児教室の間、樹の家で留守番をする。
樹よりも下校の早い絵里加。
帰った樹が玄関を開けると、
「タッ君、おかえりなさい。」と出迎えてくれる。
それだけで 樹の心は ほっと温かくなる。
「姫、宿題は終わった?」
樹の後を 付いてくる絵里加に、声を掛ける。
「漢字は終わったよ。今、計算ドリルをやっているの。」
絵里加は楽しそうに言う。
「早く終わらせな。バスケットを教えてあげるから。」
樹は、自分の宿題よりも、絵里加を優先させてしまう。
「やった。絵里加、急いで終わらせるからね。待っていてね。」
弾けるような笑顔で答える。
その笑顔が見たくて 絵里加を喜ばせたくて 色々考えてしまう。
こんなに近くで、自分に微笑む絵里加。
まだ幼かった樹は、自分が何を求めているのかさえ わからなかった。