シンフォニー ~樹
仕事を終えて帰り際、今度は 動画が届く。
ほんの30秒くらいの 短い動画。
輝くパレードを写している。
『恭子、また撮っているの。』
『しーっ。好きな人に送るんだって。』
背後で ヒソヒソ話す声は 多分友達。
そして 送られた自分は、好きな人なのか。
恭子は、声に気付いていないのだろうか。
樹は、高校生の少女に 振り回されていた。
《夜遊びして、不良だね》
動画のお礼を込めて、返信をすると
《ごめんなさい》
意外にも 素直な答えが返ってきて 樹を驚かせる。
《駅に着いたら、連絡して。家まで送るから》
好きな人と 言われたお礼に 樹も 一歩踏み出してみる。
優しいお兄さんのままでも これくらいは許されるだろう。
《ホント?》
後に付いている 意味不明な顔文字は 喜んでいるように見える。
ポジティブに考えよう。
《まかせて》
というスタンプを送ると、猫が万歳しているスタンプが返ってきた。
樹は微笑んで、スマホを置く。