シンフォニー ~樹
誰かがいる時は 無邪気で 優しいお兄さんに 懐く高校生を演じる。
樹が 仕事の時間は 邪魔にならないように LINEも控えてくれる。
夜 家に戻って LINEをすると 楽しい言葉で 樹を癒してくれる。
健気で、素直で、優しい恭子に 樹の心は 捕らわれていく。
《いつ食事に行こうか?》
お土産のお礼だから 恭子は 催促しない。
《7日の土曜日は?》
絵里加達と プールに行く予定の 次の週を選ぶ恭子。
“毎週か” 樹は 微笑んでしまう。
《毎週、出かけても大丈夫?》
受験生を気使って 樹が聞くと、
《試験の成績 良かったから、大丈夫》
と得意気な返事が届く。
《そうなの?じゃ、ご褒美で ドライブもしようか》
いつも可愛くて からかってしまう樹が 珍しく 甘い言葉をかける。
《本当?頑張って良かった》
と涙を流す顔文字が届く。
この子は これでいいのかと ふと思ってしまう。
もっとオープンに 出かけたり、自分の希望通りに 会いたいと思わないのか、不安になる。
《ごめんね。こそこそ 付き合うの 嫌でしょう》
堪えきれずに 本音が顔を出す。
《大丈夫。私のための 秘密だから。それに スリルがあって 楽しいよ》
最後のリップサービスに、樹は感動する。
冗談で 樹の不安を 減らそうとしてくれる。
《ありがとう。いい子だ》
好きだよ、が言えなくて。
でも、言ってしまう日が 近いことは、わかっていた。