シンフォニー ~樹
19
土日のどちらかは 一緒に 食事をしている廣澤家と間宮家。
年頃の子供達が 仲良くなるのも 無理のないことで。
樹が 交際宣言をした翌日は さらに 明るく華やいだ食事になった。
恭子と並んで座る樹は 健吾以上に 甲斐甲斐しく 幼い恋人の世話をやく。
バッグを持ってあげたり、椅子を引いてあげたり。
食べやすいように、お皿をずらしたり。
元々 まめで気がきく樹は 自然なしぐさで 恭子に手を貸していた。
樹の好意を 受取る恭子も 感謝を込めた笑顔で うれしそうに 樹を見つめる。
その素直な態度は みんなを ほのぼのとした気持ちにさせてくれる。
面倒見の良い樹と 甘え上手な恭子は ぴったりのコンビネーションだった。
「ちょっと樹、デレデレし過ぎだろう。」
恭子の膝から 滑ったナプキンを さっと拾う樹に 智くんが笑う。
樹は、はっとした顔で
「えっ、俺、デレデレしていますか?」と聞く。
みんなに 笑顔で頷かれて 樹は顔を赤くする。
「でも、智之ほどではないよ。安心しろ 樹。智之も 麻有ちゃんの手に お箸を持たせてあげるくらい デレデレしていたからね。」
父が、笑いながら言うと、
「兄貴」「お兄様」と 智くんと麻有ちゃんが叫ぶ。
「パパもママも。絵里加まで 恥ずかしくなるじゃない。」
絵里加の可愛い声に みんなが声を上げて笑う。
「廣澤さんの家 みんなの仲が良いのは それぞれのご夫婦が 円満だからですね。」
恭子の父は、温かい笑顔で言う。
「うちは普通ですよ。智之のところは特別です。今でもデレデレしていますからね。」
父の言葉に、なぜか母まで頷き
「でも 絵里ちゃんも壮君も すごく良く育っているから。デレデレも 捨てたものじゃないかも。」と言う。
「もう。お姉様まで。」
と麻有ちゃんが、顔を赤くする。
「恭子は 良いご縁を頂いて 本当に感謝しています。これから少しずつ 家のことを教えていきますので。」
恭子の母は、安心した表情で言う。
「大丈夫です。樹が デレデレして手伝いますから。堅く考えないで 今のままの 純粋な恭子ちゃんで来てください。」
父の言葉に 母も大きく頷いた。
感激に目をキラキラさせた恭子は、
「ありがとうございます。私、すごく幸せです。」
と、みんなを見て言う。
幼いけれど ちゃんと感謝の心を 知っている恭子を 樹は愛おし気に見つめる。
「樹、また デレデレして。」
智くんに 言われて 樹の顔は赤くなる。
みんなの笑い声の中、
「俺、いじめに あっているよ。」と、樹は言う。
智くんは 絵里加を断ち切った樹を きっと喜んでいる。
とても心配していたから。
樹を立ち直らせた恭子に きっと感謝をしている。
温かくからかわれて 樹は 胸を熱くする。
自分は一人じゃない。
みんなに 守られていることを痛感する。
いつか、自分も親になり 同じように 子供達を守りたい。
はじめての思いに 樹は少し 戸惑っていた。