シンフォニー ~樹

健吾が運転する車の中 絵里加と恭子の 賑やかな話し声に包まれて あっと言う間に スキー場に到着する。
 

ウエアの袖をまくったり、ボードを着けてあげたり、相変らず面倒見の良い樹に 健吾達は苦笑する。
 
「恭子、少しは 自分でやりなさい。」

健吾に言われても 恭子は 笑顔で樹に任せる。
 
「いいの。恭子は 初めてなんだから。」

と樹が答えると、
 
「ケンケンも、絵里加の準備 手伝って。」

と絵里加に言われる。
 
「ほらね。だから言ったんだ。」

と健吾が答えて、4人で笑う。
 


樹の指導の甲斐があって 恭子はみるみる上達していく。

午後には リフトで上まで行って みんなと一緒に降りてくる。
 

「恭子ちゃん、すごい。一日で こんなに滑れるなんて。」と驚く絵里加に、
 
「教官がいいからね。」と樹が言う。

恭子は 嬉しそうに 笑顔で頷いている。
 


「お兄さん、恭子のことは 俺が見ているから 思いっきり滑ってきていいですよ。」

帰り間際に 健吾に言われて 一人で降りて来る樹。

その華麗な滑りは みんなを驚かせる。
 


「樹さん、すごい。超カッコいい。」

下りきった樹に 恭子が飛びついてくる。
 
「本当?じゃあ、ほっぺにチューして。」

雪山の自由さが 樹を大胆にする。


ゴーグルを外した樹が 膝を折ると 恭子は少し背伸びして 樹の頬にキスをしてくれた。
 
「可愛い。ありがとう。」

樹は 恭子の髪を クシュクシュっとかき回す。
 
「一日、私を 指導してくれたお礼だよ。」

恭子は、はにかんだ笑顔で明るく言う。
 
「楽しかった?」樹が聞くと
 
「とっても。また来たい。」と答える。


何度でも来ようね。


樹は 愛おし気に 恭子を見つめて 笑顔で頷いた。



 
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