シンフォニー ~樹

キスをする前と した後では 愛おしさの種類が変わる。

ただ可愛くて 側に置きたかった恭子が 親密で 自分と一体化していく。


その日、二人は 夕食までの時間 何度もキスを繰り返す。

そして夜景を見ながら ゆっくりと食事をした後も 歩きながら 人影を避けては キスをした。
 

「恭子のキス、大好き。」

樹が言うと 恭子は 少し潤んだ瞳で 樹を見て。
 
「私も。キスってすごいね。」

恭子の言葉は やっぱり樹を笑わせる。
 
「どんな風にすごかった?」

恭子を 抱いて歩きながら 樹が聞く。
 
「なんかね、樹さんが 私の一部になったみたい。」

恭子の言葉に 樹は立ち止まって もう一度キスしてしまう。
 


「もう 恭子のキスなしでは 一日もいられないよ。」樹が言うと、
 
「だから今まで 我慢してくれたんだね。」

と恭子は 感謝の目で言った。


目を覚ました狼は どんどん激しくなるから。

一度 食べてしまった木の実の味が 忘れられなくて。

毎日 木の実を探して 歩くようになるから。


そして もっと甘い実が欲しくなる。

もう、木の実を知らない頃には戻れない。
 

「恭子もでしょう。」

樹が 探る目で言うと 恭子はコクリと頷く。
 
「私も 狼を飼っているのかな。」と言って。
 
「恭子の狼は 狂暴で 俺を食べるんだ。」

樹は笑って言う。


素直な恭子は 初めてのキスの後でも 真っ直ぐ 樹の方を向いているから。
 
「そんなことないよ。でも そうかな。だって 今も キスしたいから。」

樹は そっと立ち止まり 恭子にキスをする。

一緒にいる時は いつでもキスしてあげるよ。


これからは 今までよりも 会ってしまうね。


ほんの少しの時間でも。


キスする為だけでも。


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