シンフォニー ~樹

樹の会社で 仕事をする絵里加は 穏やかな 性格の良さで 他の社員達とも 和気あいあいと仕事を進めていた。

樹も 経営を担う者の自覚が 同期の社員との差を広げる。
 

「副社長、今日 中山金属の会長に 俺 副社長にそっくりだって言われました。」

営業から戻った樹は、智くんに 声をかける。
 
「へえ。中山金属の長老には 俺 可愛がってもらったからなあ。」

智くんは 懐かしそうな目をする。
 

「副社長が 廣澤工業に入った頃 色々質問攻めにあって 根負けしたって言っていました。」

樹の言葉に 智くんは 声を出して笑う。
 

「そうそう。あの会長 ぶっきらぼうだけど とても温かい人だから。樹も そんな話しができたっていうことは 会長に気に入られたね。」

智くんの言葉を 樹はとても嬉しく聞いた。
 


お祖父様や父が守り 伸ばしてきた会社だから 樹も大切に守りたいと思っていた。
 


樹が仕事の間も 時間があると 樹の家に来る恭子。

お祖父様達も母も そんな恭子を とても可愛がっていた。
 

「恭子ちゃん、直々 家に行っているみたいだね。兄貴が喜んでいるよ。」

智くんは 急に話題を変えて 樹は顔を赤くする。
 

「恭子、怖い物知らずだから。」

樹が 照れて言うと、
 
「なんだよ、樹の家が 怖いみたいじゃないか。」

と智くんは笑う。
 
「まだ若過ぎて 嫁姑とか そういうことを 意識できないんです。」

先入観を持たずに 樹の両親の 人間性を見る恭子を ある意味 樹は尊敬していた。
 


「お母さんが良いからだよ。麻有ちゃんにも ずっと優しくしてくれただろう 樹のお母さんは。」

智くんは 温かい目で 樹を見る。
 
「お袋は 麻有ちゃんができた人だって言っていますよ。」


樹が答えると、

「そりゃ、麻有ちゃんは 最高だよ。でも 樹のお母さんが 意地悪な人だったら 俺達こんなに 仲良く出来なかったからね。」


智くんの のろ気に苦笑しながら 樹は 改めて母を認める。
 

「そんな風に 考えたことなかったなあ。たまには お袋に 大福でも買って帰るか。」

樹が言うと、智くんは 笑顔で頷く。
 

「樹とケンケンが 俺と兄貴みたいに ずっと仲よくしてくれたら 俺も安心だから。」

智くんの 絵里加を思う気持ちを 樹は強く感じる。

そして樹の 絵里加への思いを 知っている智くんが そんな話しをするくらい 樹は恭子を愛していた。
 

「恭子 案外大人だから。姫のことは 俺と恭子で守りますよ。」

樹が真面目に言うと、
 

「頼もしいなあ。」


と智くんは、心地よくわらった。



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