馬鹿みたいだよエドワール
 どれくらい待ったと聞かれて、あなたは何と答えるだろう。
 正直に待った時間を答える人もいれば、大して待っていないように振る舞う人もいるだろう。
 長く待ったと言い張ってから冗談だよと笑い飛ばす人もいるかもしれない。

 「どれくらい待った?」
 
 エドはミナトにそう言われた。

 「ここに到着して、五分ほど」
 「嘘はいけないな、エド」

 速攻で見透かされてしまった。ミナトの赤い目は全てを見通しているのだろうか。
 そんな気がしてしまい、つい素直に吐いた。

 「三十分、ほど」

 それを聞いたミナトは特に驚く様子もなく、そうか、と呟いて車に乗った。
 エドがドアを閉める前に短く、ご苦労様、と聞こえたような気がした。


 運転中。ミントの爽やかな香りが窓を通ってまた窓から抜けていく。

 「わかった。エドはミントの匂いが嫌いなんだ! だからそんなのつけてるんでしょ!」

 絶対そうだと言わんばかりにアイミが自信よさげに聞いてきた。
 それをエドはあっさりと否定してみせる。
 
 「じゃあなんでつけてるの! 教えて!」

 嫌というなら無理やりひっぺはがしてやるぞと言わんばかりのアイミの横からミナトが口を挟んだ。

 「アイミ、あれはオシャレと言うんだ」
 「オシャレのことはよくわかんないけど、あれは違うと思う!」
 「よくわからなくて結構。まだ早いからね」
 「まだ早くないもん! 発言を取り消してください!」
 「やだ」
 「消せ」
 「やだ」
 「消して!」
 「うるさいな」
 「あっ、いまうるさいって言った! シスハラだ!」
 「何だよシスハラって」
 
 説明しよう。シスハラとは、シスターハラスメントの略だ。
 アイミが今思い付きで作った言葉だぞ。

 「取り消さないと訴えるよ!」
 「刑事訴追の恐れがあるためこれ以上お応えすることはできません」
 
 政治家かっ、と思ったアイミであった。

 「それでは、お兄ちゃんの判決は有罪です」
 「反省してます」
 「してません! 有罪! 無期懲役!」
 「冤罪だー」

 この兄、ノリがいい。
 そしていつも穏やかでいて、どこか掴みどころのない男だった。
 つかみどころのないタイプというのはつまり、味方か敵かと問われた時どちらともいえないような人である。
 それでいて冷静。
 ゆったりと流れる窓の外の景色、それから森羅万象にはびこるありもしない正義とやらに己をゆだねていた。

 車は平坦な道を進む。
 揺れが心地よいので、いつも眠りに誘われる。

 言い合いの結末がまどろみの中に溶けていった。

 それからしばらくして、車は我が家に到着した。
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