正しくない恋愛の始め方
厳かに告げられた内容に、素っ頓狂な声を上げた。
「結婚?!正気ですか?」
「酷いな。人が真面目に話しているのに正気か、なんて。」
「だって、結婚したら借金が無くなるなんて。いったい、どんな資産家のジジイを斡旋するつもりですか。」
「んー、内緒。浜本が了承してくれたら教えるよ。」
柴田主任が話す内容を、真剣に吟味する。正直、結婚に対してはいいイメージはない。だから、結婚に夢はないしするつもりはなかったけど、今回の途方もない父の借金が無くなるのならいいのかもしれない。それこそ、悪魔に魂を売るようなものだが、取るに足らないような気がしてきた。こんな私を欲しがっている人が居るのか甚だ疑問だけど、私としては無問題だ。
いや、ひとつ問題がある。
「柴田主任、質問よろしいでしょうか。」
「もちろんいいよ。なに?」
「男性とのお付き合いの経験はなく、もちろん身体の方も経験がないのですが、問題ありませんか?」
「そうなんだ、でも問題ないよ。」
この年になっても処女というのは良くない印象を与えると聞いたことがあるのだが、どうやら心の広い資産家のジジイであるらしい。それとも初物好きだろうか、まあ関係ないか。これはビジネスライクの結婚、1000万円で私を買ってもらうようなものだから、出来得る限り相手の要望をかなえると言うのは当然の帰結だろう。
「家事レベルも、庶民の一人暮らしレベルですが問題ないですか?」
「そんなこと気にしなくていいよ。なんならハウスキーパー入れればいいし。他に質問は?」
「うーん、浮かばないです。」
「どうする?」
どうする、と問いかける柴田主任は愉しげだ。そんなに私を資産家のジジイに売り飛ばすのが楽しみなんだろうか。悪趣味だな、と思いながら本当にこの話を受けていいのか再試算する。きっとここで答えなければ話はなかったことになるに違いない。この手の話は、即決が必要なのだ。
散々考えて、出た答えはひとつだった。
「この話、ぜひ受けさせてください。」
「うん、そう答えてくれると思ったよ。――よろしくね、俺の奥さん。」
「ん?奥さん?」
「そう、奥さん。」
「誰の?」
「俺の奥さん、つまり浜本。」
ギギギ、と音が聞こえてきそうなほど首をゆっくりと柴田主任の方に向けると、にっこり微笑まれた。
「資産家のジジイじゃなくてごめんね。」
「いや、え、柴田主任が、え?」
「うん、俺が借金解決してあげるから俺と結婚して?」
柴田主任の笑みが、悪魔に見えてきた。なるほど、これが悪魔に魂を売るということか、と納得と共に眩暈がした。
「結婚?!正気ですか?」
「酷いな。人が真面目に話しているのに正気か、なんて。」
「だって、結婚したら借金が無くなるなんて。いったい、どんな資産家のジジイを斡旋するつもりですか。」
「んー、内緒。浜本が了承してくれたら教えるよ。」
柴田主任が話す内容を、真剣に吟味する。正直、結婚に対してはいいイメージはない。だから、結婚に夢はないしするつもりはなかったけど、今回の途方もない父の借金が無くなるのならいいのかもしれない。それこそ、悪魔に魂を売るようなものだが、取るに足らないような気がしてきた。こんな私を欲しがっている人が居るのか甚だ疑問だけど、私としては無問題だ。
いや、ひとつ問題がある。
「柴田主任、質問よろしいでしょうか。」
「もちろんいいよ。なに?」
「男性とのお付き合いの経験はなく、もちろん身体の方も経験がないのですが、問題ありませんか?」
「そうなんだ、でも問題ないよ。」
この年になっても処女というのは良くない印象を与えると聞いたことがあるのだが、どうやら心の広い資産家のジジイであるらしい。それとも初物好きだろうか、まあ関係ないか。これはビジネスライクの結婚、1000万円で私を買ってもらうようなものだから、出来得る限り相手の要望をかなえると言うのは当然の帰結だろう。
「家事レベルも、庶民の一人暮らしレベルですが問題ないですか?」
「そんなこと気にしなくていいよ。なんならハウスキーパー入れればいいし。他に質問は?」
「うーん、浮かばないです。」
「どうする?」
どうする、と問いかける柴田主任は愉しげだ。そんなに私を資産家のジジイに売り飛ばすのが楽しみなんだろうか。悪趣味だな、と思いながら本当にこの話を受けていいのか再試算する。きっとここで答えなければ話はなかったことになるに違いない。この手の話は、即決が必要なのだ。
散々考えて、出た答えはひとつだった。
「この話、ぜひ受けさせてください。」
「うん、そう答えてくれると思ったよ。――よろしくね、俺の奥さん。」
「ん?奥さん?」
「そう、奥さん。」
「誰の?」
「俺の奥さん、つまり浜本。」
ギギギ、と音が聞こえてきそうなほど首をゆっくりと柴田主任の方に向けると、にっこり微笑まれた。
「資産家のジジイじゃなくてごめんね。」
「いや、え、柴田主任が、え?」
「うん、俺が借金解決してあげるから俺と結婚して?」
柴田主任の笑みが、悪魔に見えてきた。なるほど、これが悪魔に魂を売るということか、と納得と共に眩暈がした。