正しくない恋愛の始め方
 柴田、改め栗田桂史朗。30歳、システム部門開発課主任。いや、そろそろ営業部に移るらしいけど。趣味は意外や意外、アコースティックギター。意外と言ったら怒られた。あと、ドライブや旅行も好きと言ってた。

 身長は180センチはありそうなほど背が高い。私が165センチあるけど見上げなければならないくらい、と言えば伝わるだろうか。華奢ではないけど細身で、いわゆるモデル体型というやつではないだろうか。足が長いというのは結婚することになってマジマジと見て気付いた。何でそんなに見るんだと怒られたけど、夫となる人の特徴を捉えてるんだから多めに見て欲しい。

 天然パーマなのか、ゆるくウェーブしている黒髪に甘いマスクといえば良いのだろうか。とりあえず、女の子に騒がれることの多い顔だ。一緒の部署と言うだけで一部の女子に散々なことを言われたものだ。これからもいっぱい言われるだろう。気にしないけど。


「で、気は済んだ?」
「ええ、それなりに。」
「そんなに見つめて、惚れた?」
「うーん、どうでしょう?」


 どうせ一緒に暮らし共に在るのであれば、好きになった方が楽だと思うが、どうだろうか。家族の情というのはあると思う。この人が困ってたら助けたい、と思うし。

 という会話を、夕食後の食休みに繰り広げていた。


「紗衣、そろそろ現実逃避をやめて事実を受け入れて。」
「いえ、……いや。私も女です、腹を括りましょう。」
「ええー、そんなに一緒に寝るのが嫌なの……。」


 一番の失敗は、ベッドを捨ててしまったことだ。桂史朗さんがセミダブルだから大丈夫だよ、と言ってくれたからじゃあ邪魔だなと思って捨ててしまったのだ。よく考えてみれば、ベッドを捨てるということは一緒に寝るということだ。浅はかだったとしか言いようがない。

 ともかく、風呂を済ませようとまだ全然片付いてないダンボール箱を開ける。そして寝巻をどうするか考えて、固まった。可愛いパジャマなんて持ってない。……タオル地のワンピース、気に入っていたけどパジャマにすることにしよう。

 先に風呂に入らせてもらって、髪を乾かす。髪も大分長くなってしまった、そろそろ切ろうかなぁと鏡を見つめていると桂史朗さんが出てきた。どうやら、ずいぶんと髪を乾かすのに時間がかかってしまったようだ。


「そんなに鏡を見てどうしたの?」
「いえ、そろそろ髪を切ろうかと。」
「え、切っちゃうの?」


 どうやら、私が髪を切るのは先の話になりそうだ。
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