松菱くんのご執心
夕日の差す廊下
放課後の廊下。
新学期が始まってまだ一度も出席していない俺は担任に呼び出され、
ふらふらと職員室へ向かっていた。
その時、
「どうしたの、その手」
すれ違いざまに言われて、思わず足を止めた。
「傷だらけじゃない」
振り返ると眉に皺を寄せ、痛ましそうに俺の手元に視線を落とす女がいた。
「誰だよ、お前」
「それよりもその手……」
それよりもって。急になんなんだよ。
「見りゃわかんだろ、喧嘩したんだよ」
「まあ、何となくは。……だって、喧嘩だこ出来てるし」
女は肩をすくめる。
「でもダメだよ、それはいけない。傷つけたりしちゃ」
「は?」
なんで初対面の奴に、分かったような口を聞かれなければならないんだ。
俺の何が分かるんだ。繁華街には俺みたいな奴が腐るほどいるんだから。
相手を傷つけようが、向こうもその気なんだから関係ねえだろ。
「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ」
俺はこいつに怒りをぶつける前に、その場を立ち去ろうと女に背を向けた。
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