松菱くんのご執心
「……岡野、わたしだよ。その心配している白羽根」


「ええっ!? なんで!」



岡野は声を高くする。



「どうなってるんだよ、松菱殿は!?」


「分かんないよ。今、わたしも探してて繁華街に来たらこのスマホが落ちてて……どうしよう」


「こんな時間に繁華街なんて、何考えてるんだ! 君は女の子なんだよ、早く帰るべきだ」


「あと少し探して、それでも見つからなかったら、帰るよ」



 その間にも、足を進めていると、路地から何やら話し声が聞こえてきた。



電話から耳を離す。


岡野の声が、虫の鳴くような音量で電話口から漏れている。それを意識の外に押し出す。何を話しているのだろうか。



「なあ、松菱……」


 嫌な声だった。


自分の狂気に酔ったような声だ。ゆっくり近づいて、気づかれないうちに電話を切った。


そして、耳を澄ます。



「別にお前を恨んでいるわけでないぞ、松菱」



 松菱くんがそこにいる? それに、この声は………文化祭に必要なダンボールを受け取りに行った帰りに、


鉢合わせた人の声とよく似ていた。


少し覗くと路地は袋小路になっており、逃げ場はなく、



男三人がこちらに背を向けている。



その向こうに松菱くんはいるのだろう。



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