松菱くんのご執心
「じゃあなんでみかさを引き合いに出したんだ」


 これは松菱くんの声だ。



無事だった事にほっとする気持ちと、いつもとは違う冷やかな声にぞっとした。



「お前だけが恋人と仲良くってのは俺ら的には、気持ちいいわけないだろ。
書類送検をされてから、俺らは一気に惨めになった。周りからは犯罪者だと思われてんだよ」


「それがどうしたっていうんだよ」


「お前も同類だって言いたいんだよ。いや、それよりも酷いな」


「何が言いたい」


「お前は、実の両親を殺した、真の犯罪者だ。……そうだろ?」


 実の両親を殺した? 


松菱くんが? 


そのふたつが頭の中で反芻する。
茫洋たる海のような困惑が、わたしの足を竦めさせた。



「だから何だって言うんだ」



 その松菱くんの冷たい、すりガラスの様な物言いに、
気のせいではなく、確かに今までの思い出たちが、ぎしぎしと音を立てる。



 まさか、そんなこと何も言ってなかったじゃない。………いや、嘘でもほんとでも、そんなの言えるわけないか。



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