松菱くんのご執心
 付き合っているとはいえ、会って間もないのに言えるわけが無い。


またわたしは人伝に聞いた噂に翻弄されているんだ。


思い出せ、彼はいつも自分が悪者になろうと、それを受け入れ、諦めて真実を海底に沈めてきた………。


しっかりしろ、真実はもっと別の場所にあるはずだ。


自分の目で見たものを信じよう。彼はまだ、私に何も言っていない。



「だから、俺たちがお前を躾直してやろうと思ってな」



ひひひと、男は不気味に笑った。ひとしきり笑い、すっと真顔に戻る。


低く、地響きするような声で静かに言った。


「───やれ」


 どすっ、と鈍い音が響き渡った。



 まさか、松菱くんがやられるわけが無いと、わたしは鷹を括っていた。


殴られたのは男たちの方だと信じて疑わなかった。



 しかし、陰から覗いたとき、



「なんで……」と言葉と共に、涙が滲んだ。



 身体をくの字に曲げ、蹴られ、殴られ続けている松菱くんがそこにいた。


 男たちも「なんで、やり返さねえんだよ」と不満を爆発させる。



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