松菱くんのご執心
 相手をきっと、睨みつけた。



誰に言うでもなく、



「そんなの、逃げられるわけじゃないでしょう! ここ、袋小路になってるし
………ていうか絶対、逃げてあげないから」



と、わたしは半ばやけくそになっていた。


殴られようが蹴り飛ばされようがここを絶対に退かないと決めた。


────いま、決めた。



 松菱くんは肋骨を抑えて、かろうじて立っている。



「威勢がいいのは結構だが、痛い目みて、泣き叫ぶのがオチだと思うぜ?」



 分かりやすく拳をボキボキと鳴らし、威嚇してくる。

男たちが興奮状態であるのは明白だった。

拳を振り上げるのを見て、これはもう殴られると身体を固まらせ覚悟を決めた。




────その時、目の前を影が横切った。




同時に鈍い音が響く。


僅かな衝撃はあったが、わたしが殴られることは無かった。



 わたしは松菱くんに包み込まれるように守られ、その場に二人して倒れ込んだ。



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