松菱くんのご執心
「危ないことするな、みかさ……俺の方が心配する」


「………なんで庇ったの」


「嬉しかったから」


「え?」


「俺なんかのために、来てくれたのが嬉しかったから………」


 力なく笑う松菱くんはぐったりとわたしに体重を預けていた。

私を庇って肩を殴られたのだろう、背中に触れると顔をしかめた。




「こんなにボロボロになって、何が傷つけないよ。……あんなこと言うんじゃなかった」


「そんな事言うなよ、みかさ」


「だって……約束しなかったら、こんな怪我、しなかったかもしれない」



 打つ手もなく、目の前の狂った男たちを見ていると絶望感に苛まれる。


 男たちは傷ついた松菱くんを見ては鼻を膨らませ、
息を荒くし、自分の拳にうっとりしていた。




焦点の合わない目に背筋が凍る。




────助けて、その声も掠れて音にもなっていない。


男たちはまたしても、拳を振り上げた。
わたしは松菱くんの背中に伸ばした手に力を込める。


これが、なんの意味も持たないことは分かっている。でも、無力なわたしが今出来る最大の抱擁だった。





 そして、緊迫と狂気の最中
突如として、コツコツと路地の入口から靴音が響いた。



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