松菱くんのご執心
「忘れたから、みかさのを見せてよ。一緒に見たら授業も問題ない。だろ?」
本当は鞄の中に入ってるけど、良い口実を見つけたから、教科書は忘れたことにしておこう。
「うん。いいよ」
華が咲いたような笑顔が俺を満たしてくれる。
幼少期からぽっかりと空いたままの心に彼女はみるみるうちに俺の中に入り込んで、居座っちまう。
不思議だ。
みかさといると、まるで自分が子供に返ったような感覚になる瞬間がある。
安心するというか、俺に絆創膏をくれたみたいに、
「はい、これ使いなよ。わたしのを半分あげるから」と愛情を差し出してくれるような、そんな感覚。
みかさは愛情だけじゃなくて、俺の周りの環境さえも変えてくれた。
岡野という友達だってできたし、クラスメイトからの見る目も変わってきたと思う。
俺はもっと貪欲になっていくだろうか、そんな気がする。
みかさに近づいてくる男は片っ端から排除していくだろうし、
俺だけを見ていて欲しいから、よそ見をするみかさに、もしかすると意地悪なことを言ってしまうかもしれない。
でも、みかさの笑顔を守りたい。俺にとって、守っていきたいものだから…………。
だから、こんな汚れた俺の気持ちは、もう少し秘めておこうと思う。
───お、し、ま、い。