松菱くんのご執心
「例え松菱くんじゃなくても、わたしはそう言うよ」



 爽は松菱くんに親でも殺されたかのような雰囲気があった。もちろん、爽の親は健在だ。


「みかさは本当の悪人にもそんなことを言いそうだ。更生なんてしない奴はしない。
何回も何回も繰り返してその度に反省したふりをするだけさ」


「爽、もうやめよう。こんな話を振ったわたしが悪かったよ……」


「ということは、分かってくれたのかな?」


爽はいつもの調子を取り戻していた。


名前のごとく爽やかな笑みを浮かべて言った。



「爽の言うことは理解した、でもその考えは受け入れられない」


「ああ、みかさはそういう人間だもんね。そうだったそうだった。このやり方では駄目なんだ………正攻法じゃないと」


 もう、わたしには爽が何を言っているのか全く分からなかった。問いただすこともしなかった。



 亀裂の入った壁の先に闇が潜んでいると分かっていて、その間隙を覗く勇気なんてない。


倦怠感に襲われたわたしは「踏み入れない方がいい」自分に繰り返し言い聞かせた。


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