松菱くんのご執心
「確かめようと思った。みかさが俺に同情して構っているわけじゃないって。
でもさ、須藤が正しかったんだ。
………同情してたんだね、地味でクラスから浮いていた僕をさ」
わたしは大きく首を横に振った。
「違うっ! 同情なんかじゃない」
「別にいいよ、同情でも。今となってはどっちでもいい。
一番、嫌なのはみかさと距離ができたこと、それが何よりストレスだった。こんなことなら変わらなければよかった」
「もしかして……」
「馬鹿だろ? 最初はちょっとしたストレス発散のつもりで手首を切ってたんだ。そしたら……どんどん酷くなって、気づけばこんな事になってた」
思えばこの頃から爽の闇は深く、沈んでいた。
爽から向けられる感情は、恋愛とはまた違った執着のような、ねっとりとしたものだ。
「刃物で自分を切りつけるのだけはやめて。本当にわたしは爽に同情してたわけじゃない。
でも……変わってしまった爽と距離ができたのは間違ってない。
爽の周りに人が集まるようになって、わたしは遠慮してた。
だって、爽………すごくかっこよくなってるんだもん」
わたしは多分すごく情けない声だったと思う。
「だから、あまり話してくれなかったの?」
「そんなところ」
「じゃあ………これからも、変わらずに俺といてくれる?」
「もちろん。大事な幼なじみだからね」
「……幼なじみね、まあ今はそれでいいか」
爽は手を広げて「仲直りのハグ」と笑う。
手を引かれ、一瞬のことで、あれよあれよとわたしは抱きしめられた。
「みかさ、いい匂いする」
「あんたは変態か」とチョップを食らわせる。
それからはリストカットもなく、時々一緒に帰ったり、爽が家に夕飯を食べに来たりした。
爽が情緒不安定になったのは、これが最初で最後だった。