松菱くんのご執心
「松菱くんは、なんでそんなに頭がいいの? 授業もろくに出てなかったのに」
「ああ、それは多分三木さんに教えてもらってたからだな。………あの人、意外と頭いいんだよ。
そんで、厚かましい。だから、嫌がる俺に無理やり勉強を教えて、自分が知ってる知識を永遠と語ってさ。
三十分、一時間ならまだしも、二時間、三時間と三木さんは話し続けるんだ。
『絶対役に立つから、俺の教えをありがたく聴きたまへ』とか言って」
「役に立つって言い切っちゃったんだ」
わたしは小さく笑う。
「ほんとに役に立ったから、馬鹿にできない」
「役に立ったの?」
「おう。だって今、みかさの役に立ってただろ?」
みかさの為に勉強してたんだと思えば、やぶさかではない、と松菱くんは誇らしげに言った。
「そういうこと言われると、なんか照れるんだけど」
「照れてる顔が見たいから言った」
「って言ってる松菱くんが照れてどうすんのよ」
手で口元を覆い、反対を向く松菱くんは耳を赤く染めていた。
「みかさの顔が赤いから、移ったんだよ」
苦しい言い訳に自分自身でも気づいているのだろう。追及はよしてくれと言わんばかりに手を振る。
「みかさの照れてる顔の破壊力が、想像以上に強力でビビったわ」
そう言われると、ますます顔に熱が集中した。
暑い、暑いと手でパタパタと扇で、二人して何をやってるんだか。