松菱くんのご執心
「そりゃまあ、お勉強を教えてもらいにきたんだよ。
不良の天才、松菱様にね。隣の席の岡野に聞いても、埒が明かなくてさあ」
「まあ、僕は頭が悪いからな」
岡野は何故か偉そうだ。
「それ威張るところじゃないだろ」
松菱くんが言う。
「そんで、変な異名つけんな。なんだ『不良の天才』って。矛盾してるじゃないか」
松菱くんが不良の天才だとしたら、岡野は「アホな優等生」って具合だ。
見た目と中身のズレがここまで激しいとなると、苦労しそうなものだ。
「いや、だからさ、学年最下位の僕が頼んでるんだよ。教えてよ」
まるで学年最下位が偉いような口ぶりで岡野は言う。
「なんか、態度と言動がちぐはぐで内容が入ってこねえよ」
「そうだろ、そこが僕の長所だ。相手を混乱させることが出来る。僕は混乱させるを使った」
「ポケモンかお前は」
いつになく鋭いツッコミを見せる松菱くん。
岡野は丸めた問題集で手のひらを、ばんばんやりながら話す。
「このクラスに僕の教師が務まるのは松菱様しか居ないと思うんだよ。
それにもうすぐテストも近いし。……ということだからさ、四人で勉強会をしよう」
「あ、いいね。それは助かる」と真結ちゃん。
「は?」と松菱くん。
「何でそうなる」とわたしは息を吐いた。