松菱くんのご執心
 





「遅いねー。二人とも」



結局私たち四人で勉強会をすることになった。場所は松菱くんの家だ。


しかし、二人は待てど暮らせど全然来ない。



待ちくたびれて、



「真結ちゃんに電話してみようか」と提案してみる。


「………いや、たぶん来ねえよ。あいつら」



ベッドの上で休日のお父さんのようにくつろいでいる松菱くんが呟くように言った。



「来ないって?」どういうこと?


「あいつら気を利かせて、俺たちを二人にするって岡野と本盛が言ってるのをたまたま聞いた」


「真結ちゃん、変な気を利かせてなくていいのに。
それに、岡野は本当に松菱くんに教えてもらった方がいい気がするけど。………あ、」


ポケットの携帯が震える。真結ちゃんからだ。


「本盛からか?」


「うん、そうなんだけど。なんだこれは」


訝しげにわたしは読み上げる。


「『風邪ひいた。岡野も。欠席する。楽しんで』だって。なんでカタコトなんだろ」


わたしは喉を鳴らして笑う。



「ほら見て」と言うと、松菱くんはベッドの上から覗き込んだ。



「あれだな。犯行声明文みたいだな」


「確かに。これが現代じゃなかったら、新聞の切り抜きでポストに入っていそう」


「それはただの犯行声明文だ。……そんで、楽しんでって書いてあるけど、どうする? 勉強すんのか?」



松菱くんはベッドから降りて私の隣に腰をおろした。


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