松菱くんのご執心
「みかさ暖かい」


「重たいよ、松菱くん」


「抱きしめたくなるって、こういう気持ちになるんだな」


「苦しいよ」


「俺も、苦しい」


確かめるように何度もぎゅっとするもんだから、とっても苦しい。

それに、緊張とドキドキで、どこかからサイレンが聞こえてきそうだ。



「……駄目だ。これ以上くっついてたら、駄目な気がする」


突然、正気を取り戻したのか、松菱くんはすっとわたしから離れた。


「危うく理性を持ってかれるとこだった」


呆気にとられていると、


「悪かったな。ほら、掴め」と手を差し伸べて起き上がらせてくれた。
今のは何だったんだろう。まあ、でも起き上がらせてくれたから、


「ありがとう」とお礼まで言おうとした矢先。


まあ、油断も隙もない。


そのまま、いきなり強く引き寄せるものだから、「うわあっ」と情けない声が出て、

今度はわたしが松菱くんに覆い被さるように倒れてしまった。


やられた、と思った時にはもう、遅かった。



「みかさも結構大胆だな」とニヒルに笑う。



「いや、だってっ!松菱くんが……」


腕を強く引くからだよ。と言いたかったのだけれど。松菱くんの両腕が首の後ろに回って、力が込められる。


ぐっと更に距離が縮まった。


「俺がどうしたって?」


惚けた顔つきで聞いてくる。
わたしばっかりドキドキしている気がする。


「なんか、松菱くん、慣れてるみたいでヤダ」


 こんなのを色んな女の子にやってたら、みんな松菱くんを好きになってしまう。


ああ、嫌だ。


まるで嫉妬しているみたいで、そんな自分の方が嫌だ。

もう、恥ずかしさを通り越して泣けてくるくらいだ。



「……慣れてる? どこが」


松菱くんは心当たりがないようだった。


「俺、前にも言ったけど。今までバイトか喧嘩しかしてこなかったから、彼女なんていた事ないし、
それに、みかさ以外に好きなやつも、今までいなかったぞ?」


「え、そうなの」




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