松菱くんのご執心
彼女のひとりやふたり、両手に花のような状態でもなんら不思議のないくらいの綺麗な顔立ちの彼に、
彼女がいなかったのも驚きだが、それでいて女の子を扱う心得ができているのが、もっと驚きだった。
「なんだ、妬いてんのか?」
「そ、そんなんじゃない。……それより、腕を退けて」
「俺に身を任せればいいものを。甘えさせてくれるって言ってただろ」
「言ってないから、はーなーしーて」
胸板をどんどん叩く。
「はいはい。分かったよ」
撃たないでください、と言わんばかりに万歳をした。
わたしは座り直して、
「あ、そういえば」と爽との会話を思い出した。
一応聞いておこうと、口を開く。
「爽が松菱くんに大事なものを奪われたって言ってたんだけど。何かとったの?」
「は? 何にもとって……」
眉をしかめて考えているようだったが、ややあって納得したように頷き、笑う。
「そうだな、まあ取ってないことも無いな。むしろ今、現在進行形で奪い取ろうとしてるかも」
「今すごく悪い顔してたよ、松菱くん。おまけに、どういう意味かさっぱり分からないんだけど」
「みかさは分からなくていい。そもそも、あいつのものじゃないしな」
「ええ……?」