松菱くんのご執心
「ひとつ聞いてもいい?」


「なんでもどうぞ」


「なんでわたしのことを好きになったの」



 勉強の話かと思ったという松菱くんの心の声が聞こえてきそうだ。



「初めから、って言ったら引く?」


そう言われて、初めて会った日のことを思い出す。

わたしが手の傷のことに触れると、あからさまにしかめっ面になっていた。
何でそんなことをお前に言われなきゃいけないんだよ。という顔だったし、むしろそう言ってた気がする。


あの時から? 


「引かないよ。それにしても、雰囲気が随分と変わったなって思って」


「それに関しては俺が一番驚いてる」


ひと言話すだけで空気が凍りつくようなオーラを放っていたが、今となっては取り残された金髪だけが彼が不良だったことを主張している。


人はいつ、どこで、どう変わるか分からないなあ、とつくづく思う。


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