松菱くんのご執心
「お前、みかさっていうのか」
「うん。白羽根 みかさって言います」
なんだか、改まって自己紹介をしてしまった。
気恥しさと、よろしくの意味を込めてペコッと頭を下げる。
「えっと………あなたは?」
「俺は、松菱 秀一」
わたしはふむふむと相槌をうつ。
「まつひし しゅういち、ってなんだか噛みそうな名前だね」
「慣れればどうってことない」
平然と松菱くんは言う。
「大体のことは、慣れたらどうってことないよ」
「それもそうだな」
授業はいつの間にか再開していて、周りも平静を取り戻していた。
わたしは黒板に目を向けシャーペンを走らせる。
一番後ろの席だから私語が聞こえなかったのか、不良少年が怖くて注意出来なかったのかは分からないけど、
授業はわたし達に構わず、どんどん先へ進んでいった。
「昼さ、一緒に食わねえ?」
授業も中盤に差し掛かった頃、松菱くんは口火をきった。
「わたしと?」
「そう、みかさと」松菱くんはわたしに指を向ける。
「どこで?」
「それは……決まってんだろ」
その決まってるとは、松菱くんの中で決まっていることなのか、
それとも一般的に、世間的に決まっていることなのか。
まずは、行ってからしか分からない。