僕が愛しているのは義弟



 ……でも、この空間から出たら、またオレの心の中は嵐のように吹き荒れてしまうかもしれない……。


 オレはこの空間から出たくないと思った。

 この空間にいると心が静まる。その心を無くしたくない。


 オレは時間が許す限り、この空間にいようと思った。

 ……もし叶うのなら、このまま時間が止まればいいのにと思った。

 ……このまま時間が止まれば……葵に会わずにすむ…………。


 今のオレは葵と普通に顔を合わせる自信がない。

 オレは、今までのように葵と普通に話すことができるのだろうか…………。


 オレは空を見上げた。

 もう少しで太陽が沈む。

 その光景がどこか寂し気で切ない……。

 ……だけどオレは、その空を見続けた。





 それからどれくらい経っただろう。


 オレはスマホを持ってきているのに時間を見ることをすっかり忘れていた。

『今何時だろう……』そう思ったオレはスマホを見ようとしたそのとき着信音がした。

 スマホを見ると……。


「……‼」


 オレは少しためらった。

 ためらいながらも……。


「……もしもし」


『もしもし、隼翔兄。今どこにいるの? 隼翔兄の部屋に行ったら隼翔兄いないんだもん。いつ出てったの?』


 葵……。


< 134 / 354 >

この作品をシェア

pagetop