僕が愛しているのは義弟



「……あ、ちょっとコンビニに買いたいものがあることを思い出して……」


 オレは葵に噓をついた。


『もうすぐ夕飯の時間だから、それまでには帰ってきて』


「……あ、ああ……わかった」


 オレは葵にそう言った。

 ……そう言ったけど……オレは……本当に普通に家に帰ることはできるのか……?

 葵がいるあの家に…………。

 普通に帰って葵と普通に話すことができるのか……?

 でも、本当はそんなことを思うのはおかしなことだ。

 別に葵とケンカをしているわけではないのに。

 それなのに葵と普通に話すことができるかどうか、そんな心配をするなんて…………。


 オレは頭では家に帰ろうと思っているのだけど……足が……最初の一歩を踏み出すことができない……。


 オレは一体どうすればいいのか……。

 そう思っていたそのとき…………。


「……隼翔兄……」


 えっ……葵……?

 オレは驚きのあまり一瞬、声が出なかった。

 ……どうして葵がここに…………。


「……隼翔兄……。やっぱりここにいた」


 葵は初めから気付いていた……?

 オレがここにいることに……。


「……葵……どうして……」


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