僕が愛しているのは義弟
葵は、まず少しだけドアを開けてチラッと顔を覗かせてから部屋に入ってきた。
「特に用というわけではないんだけど、なんとなく隼翔兄の部屋に来たかったんだ」
葵は同性のオレでもかわいいと思う笑顔を見せてそう言った。
「ここ座ってもいい?」
「ああ」
葵は、ちょこんとオレのベッドに座った。
……その……ちょこんと座るのはなんだ‼
オレは、そんな座り方をした葵のことをかわいいと思いそうになった。
……いけない、そんなことを思っては……。
オレはそんな気持ちを抑えながら葵としばらく話をした。
オレと葵が話していると葵のスマホが鳴った。
葵は「ちょっとごめんね」と言って部屋を出た。
ドア越しから葵が話している声が途切れ途切れに聞こえてきた。
会話の内容は、はっきりとは聞こえてこないけど確かに聞こえてくる言葉がある。
葵は話の最中に時々、「橘」と言っている。
そう、通話の相手は、ひよりちゃんだ。
オレは葵の通話の相手がひよりちゃんと知って、オレの心の中はどうにもならないくらいに激しく乱れた。
葵が「橘」、「橘」と、その名を呼ぶたびにオレの心の中は引き裂かれそうになった。