未明の三日月
社会人になって2年目の夏、美咲は香奈の紹介で 坂本達也と付き合い始めた。
香奈の同期で メガバンクで働く達也は 気さくで穏やかな性格だった。
「でもさ、何か物足りないのよね。」
麻有子とランチをしながら、美咲が言う。
「えー。何で。優しそうなイケメンじゃない。」
スマホの写真を見ながら、麻有子は 不思議そうに言う。
「そうなんだよね。出身校も勤務先も理想的だし。スペックは問題無いけど。なんだろうね。」
不思議そうに 首を傾げる美咲を、麻有子は笑う。
「のろ気に聞こえるよ、美咲。」と言って。
「彼 東京生まれで、ずっと東京育ちなのね。今も実家に住んでいるし。だからかな。何かハングリーじゃないの。」
美咲が言うと、麻有子は大きく頷いた。
「それ、なんかわかる。東京しか知らない人って、違うよね。絶対、私達の苦労 理解できないと思う。」
麻有子の言葉に、
「そこよ。」
と美咲が言い、麻有子は クスクス笑った。
「でも、いいじゃない。別に嫌な所がないのなら。付き合っているうちに、もっと好きになるよ、きっと。」
と麻有子は言った。